手術が決まると、医師から「手術前は○時間の絶飲食が必要です」と説明を受けます。
空腹や喉の渇きは誰にとっても辛いものですが、この絶飲食には重要な医学的根拠があります。
今回は、なぜ手術前に絶飲食が必要なのか、詳しく解説していきます。
目次
絶飲食が必要な主な理由
1. 誤嚥性肺炎の予防
最も重要な理由は、「誤嚥性肺炎」(ごえんせいはいえん)を防ぐためです。
普段の体の仕組み
私たちの体には、食べ物や飲み物が「誤って気管に入らないようにする」優れた防御システムがあります。
- むせる反射:喉に違和感があるとむせて外に出す
- 咳をする反射:気管に異物が入りそうになると咳で防ぐ
- 飲み込む時に自動的に気管を閉じる仕組み
麻酔をかけると起こること
全身麻酔をかけると・・・
- これらの防御システムが一時的に止まってしまいます
- 例えるなら、喉の警備員が居眠りをしているような状態です
- 食べ物や飲み物が間違った道(気管)に入っても、体が気づかなくなります
なぜ危険なのか
胃の中に食べ物や飲み物が残っていると・・・
- 麻酔中に胃の内容物が逆流する可能性があります
- 防御システムが働いていないため、それが気管を通って肺まで入ってしまうことがあります
- 肺は本来、空気だけが入る場所なので、食べ物や胃液が入ると重い肺炎を引き起こす可能性があります
- この肺炎が「誤嚥性肺炎」です
これを防ぐために、胃の中を完全に空っぽにしておく必要があるのです。
2. 麻酔時の安全性確保
麻酔をかける際の安全性を高めるために重要です。
- 胃の中が空っぽの状態だと、気道確保が容易になります
- 予期せぬ事態が起きても、胃内容物による合併症のリスクが低くなります
- 麻酔薬の効果を正確にコントロールしやすくなります
3. 手術中の安全性向上
手術自体の安全性を高めることにもつながります。
- 腹部の手術では、空の胃のほうが手術操作がしやすくなります
- 緊急事態が発生した場合の対応もスムーズになります
- 術中の出血リスクを低減できます
絶飲食の具体的な時間
一般的な目安として
- 固形物:手術の6-8時間前から
- 水分:手術の2-6時間前から
※ただし、これは一般的な目安で、手術の種類や患者さんの状態によって異なります
なぜ時間が異なるの?
- 固形物は胃での消化に時間がかかります
- 清水は比較的早く胃から腸に移動します
- 胃の中を完全に空にするために、余裕を持った時間設定をしています
絶飲食中の注意点
1. 服薬について
- 普段服用している薬については、医師の指示に従ってください
- 許可された薬は少量の水で服用できる場合があります
2. 口腔ケア
- 歯磨きは可能ですが、水は飲み込まないように注意が必要です
- うがいは控えめにしましょう
3. 禁煙について
- 喫煙も控えるように指示されます
- タバコは胃酸の分泌を促進するためです
よくある疑問
Q1: 「ちょっとの水」でもダメなの?
A: はい。少量でも安全性に影響を与える可能性があります。
Q2: のどが渇いたらどうすればいい?
A: 唇に軽く水を塗る程度なら問題ありません。氷を舐めることが許可される場合もあります。
Q3: 絶飲食は手術当日だけ?
A: 手術の種類によって異なります。医師の指示に従ってください。
まとめ
手術前の絶飲食は、決して患者さんを苦しめるためのものではありません。
安全な手術のために必要不可欠な準備なのです。
空腹や喉の渇きは確かに辛いものですが、これを守ることで、より安全な手術が可能となります。
ご不明な点がありましたら、必ず担当医や看護師にご相談ください。
皆様の安全な手術のため、医療スタッフ一同、全力でサポートさせていただきます。