中高年男性は鼠径ヘルニアの発症率高いの?

こんにちは、鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り手術を専門とする広島アルプスクリニックです。
今回は、特に50歳以上の男性に多いとされる鼠径ヘルニアについて、詳しくご説明させていただきます。

目次

1. 鼠径ヘルニアとは

鼠径ヘルニアとは、腹腔内の臓器(主に腸管や大網)が腹壁の脆弱部から皮下に脱出する疾患です。
一般的に「脱腸」と呼ばれ、足の付け根(鼠径部)に膨らみが出現することが特徴です。
この膨らみは立位や腹圧がかかった際に目立つようになり、臥位になると自然に戻ることが多いのが特徴です。

日常生活に支障をきたすだけでなく、重症化すると腸閉塞や絞扼性イレウスなどの深刻な合併症を引き起こす可能性があるため、適切な診断と治療が必要な疾患です。

2. 50歳以上の男性が発症しやすいか

統計データ

実際の統計データによると、男性の実に3人に1人が一生涯のうちに鼠径ヘルニアを発症するとされています。
特に50歳以上の男性では発症リスクが顕著に上昇し、70歳以上では約5人に1人が発症するというデータもあります。
この数字は、若年層と比較して明らかに高い発症率を示しています。

解剖学的要因

男性に鼠径ヘルニアが多い最も大きな理由は、解剖学的構造にあります。
男性特有の構造である鼠径管は、胎児期に精巣が腹腔内から陰嚢へ降りていく際の通り道として形成されます。
この鼠径管には精索が通っており、これが解剖学的な弱点となります。

女性にも鼠径管は存在しますが、子宮円索が通過するのみで、男性の精索ほど太くないため、ヘルニアの発生リスクは相対的に低くなります。
この解剖学的な特徴が、男性の鼠径ヘルニア発症の基礎的な要因となっています。

加齢による要因

加齢に伴う身体的な変化も、鼠径ヘルニアの発症リスクを高める重要な要因です。
年齢とともに、腹壁を構成する筋肉の力が低下し、結合組織も脆弱化していきます。
特に重要なのは、組織の弾力性を保つコラーゲンの減少です。

コラーゲンは加齢とともに質的・量的な変化を起こし、組織の強度と弾力性が低下していきます。
この変化は、腹壁の支持力を弱め、ヘルニアの発症リスクを増加させる直接的な要因となります。

ホルモンの影響

50歳以上の男性では、加齢に伴って男性ホルモン(テストステロン)の分泌量が徐々に低下していきます。
テストステロンは筋肉の維持と発達に重要な役割を果たすホルモンであり、その低下は全身の筋力低下を引き起こします。

特に腹壁の筋肉への影響は大きく、腹圧に抗する力が弱まることで、ヘルニアの発症リスクが上昇します。
このホルモンバランスの変化は、加齢による筋力低下をさらに加速させる要因となっています。

生活習慣の蓄積

長年の生活習慣も、鼠径ヘルニアの発症に大きく関与しています。
特に重労働に従事してきた方々では、長期間にわたる腹圧への負担が蓄積します。
また、慢性的な咳嗽や便秘による腹圧の上昇も、時間とともに腹壁への負担を増加させます。

さらに、加齢に伴う体重増加も無視できない要因です。内臓脂肪の増加は腹腔内圧を上昇させ、すでに弱くなっている腹壁への負担をさらに増大させます。
これらの要因が複合的に作用することで、50歳以上の男性における鼠径ヘルニアの発症リスクが高まっていきます。

3. 鼠径ヘルニアの治療

鼠径ヘルニアの根本的な治療は手術です。
現在は、メッシュという人工補強材を用いた術式が標準治療となっており、多くの場合で日帰り手術が可能です。
手術は局所麻酔下で行われ、手術時間は通常1時間程度です。

近年の手術技術と医療機器の進歩により、より低侵襲で安全な手術が可能となっています。
術後の回復も早く、多くの患者さんが手術後1週間程度で通常の生活に戻ることができます。

4. まとめ

50歳以上の男性における鼠径ヘルニアの高い発症率は、解剖学的特徴、加齢による組織の変化、ホルモンバランスの変化、そして生活習慣の影響が複合的に組み合わさった結果です。
予防的な対策としては、適度な運動による筋力維持、過度な重量物の持ち上げを避けること、適正体重の維持、そして便秘の予防が重要です。

早期発見・早期治療が重要ですので、鼠径部の膨らみや違和感を感じた際は、専門医への相談をお勧めします。
当クリニックでは、患者さま一人一人の状態に合わせた最適な治療方針を提案させていただいております。
ご不安な点やご質問がございましたら、お気軽にご相談ください。

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