鼠径ヘルニアの手術を受けた後でも、残念ながら再発のリスクは存在します。
手術方法や患者さんの体質など、様々な要因が関係してきます。
今回は、なぜ鼠径ヘルニアが再発するのか、その仕組みと特徴について詳しく解説していきます。
鼠径ヘルニアとは
鼠径ヘルニアとは、足の付け根(鼠径部)の筋肉や筋膜が弱くなることで、腸が飛び出してこぶのように膨らむ病気です。
この病気は自然治癒することはなく、手術による治療が必要不可欠です。
かつては組織を縫い合わせて修復する手術(従来法)が一般的でしたが、現在は人工補強材(メッシュ)を使用する手術が標準治療となっています。メッシュを使用する手術は、組織への負担が少なく、再発率も低いことが分かっています。
手術方法は、メッシュを前方から挿入する従来式の手術(前方アプローチ)と、お腹の中から修復する腹腔鏡手術(後方アプローチ)があり、患者さんの状態や年齢、ヘルニアの状態などに応じて最適な方法が選択されます。
鼠径ヘルニアの手術を受けた後でも、残念ながら再発のリスクは存在します。
これは、鼠径部には複数の解剖学的脆弱部位が存在するためです。
今回は、なぜ鼠径ヘルニアが再発するのか、その仕組みと特徴について詳しく解説していきます。
再発の原因と手術方法による違い
鼠径ヘルニアの再発は、鼠径部に複数の脆弱部位が存在することが主な原因です。
男性の場合、内鼠径輪と鼠径管後壁が主な再発部位となります。
一方、女性の場合は内鼠径輪、鼠径管後壁に加えて、大腿輪や閉鎖孔からも再発する可能性があります。
つまり、一か所のヘルニア門を修復しても、他の脆弱部位が新たなヘルニア門となって再発する可能性があるのです。
従来のメッシュを使用しない手術では、二つの再発パターンがあります。
一つは修復した同じヘルニア門が再度拡張してしまうケース、もう一つは別の脆弱部位が新たなヘルニア門となるケースです。
組織を縫い合わせて修復する方法では、組織への張力負担が大きく、特に同じ場所での再発リスクが高くなります。
現在主流となっているメッシュを使用する手術では、再発率は大幅に低下しています。
しかし、この場合でも一回目の手術でメッシュが十分にカバーできなかった部分が、新たなヘルニア門となって再発する可能性があります。
特に、内鼠径輪周囲や大腿輪といった解剖学的に複雑な部位では、メッシュの留置が技術的に難しい場合があります。
メッシュを用いても再発する?男女でも再発形式に違いあり!
メッシュを用いた手術は、現代の標準治療として確立していますが、解剖学的な性差により再発形式に違いが見られます。
男性の場合、精索が通る内鼠径輪周囲からの再発が特徴的です。
これは、精索という重要な構造物が通過する必要があるため、メッシュの固定や配置に制限が生じるためです。
一方、女性の場合は大腿輪からの再発(大腿ヘルニア)が特徴的です。
女性の骨盤は出産に適した形状をしているため、大腿輪が解剖学的に脆弱になりやすく、初回手術で見逃されやすい部位でもあります。
また、閉鎖孔ヘルニアという比較的まれな形態での再発も、女性に多く見られます。
特に、女性に特有な鼠径部ヘルニア(大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニア)は、皮膚を8cm程度切開する前方アプローチ法でメッシュを留置しても覆えないため、腹腔鏡手術が推奨されます。
再発のサインと対応
再発に気付くためのサインとして、手術部位の膨らみ、違和感や痛み、腹部の張りなどがあります。
ただし、再発初期の症状は軽微なことも多く、自覚症状がない場合もあります。
定期検診の際に医師が発見することもあります。これらの症状を感じた場合は、すぐに医療機関を受診することをお勧めします。
まとめ:専門医による適切な診断と治療が重要
鼠径ヘルニアの再発は、解剖学的な特徴や手術方法、個人の体質など、様々な要因が関係する複雑な問題です。
現代の手術技術は進歩し、再発率は着実に低下していますが、完全にゼロにすることは困難です。
再発の不安がある場合は、ためらわずに担当医に相談することが賢明です。
また、再発した場合でも、適切な手術方法を選択することで、良好な治療結果が期待できます。
手術後の定期的な経過観察を含めた包括的なケアにより、多くの患者さんが健康的な生活を送れています。